木漏れ日と枝葉を踏む音以外には何もなく、もうどれだけ歩いただろう。 大自然の中に突如として現れたコンクリートの塊をどう捉えたらいいだろうか。近づけば近づくほど分かるその異様な大きさを、何に例えたらいいだろうか。

自然の中にあるこれほどまでに異質な存在は、江戸前鮨一筋の頑固オヤジがドヤ顔で巻いたカリフォルニアロールくらい僕を困惑させた。  

夏のサヴォアなんか誰も来ないよ。葡萄の世話をしているおばさんに笑われた。そして、暇なら葡萄の世話を手伝っていったらどうかと。僕は笑顔で丁重にお断りした。

季節を入口と出口が一緒になった円と捉えるか、後戻りも交差することもない線と捉えるか。季節は、外へと向かう拡大する渦巻きのようなものだ。その中心でずっと変わることなく、何十年も黙殺されていたんだねと、ジロットダムの無常を感じた。

バンクーバーとシアトルの間にある小さな町の小さなバーで、マスターからどこから来たんだと話しかけられた。僕は遠く東の国からだと答えた。それきりバーはまた静寂に包まれた。

雄弁に語りかけてくるダムと、何も語らないダムの二種類がある。どちらが優れていてどちらが劣っているということはない。ただ、雄弁に語るダムが何も語らなくなった時に（もしくはその反対）、彼等が本当に言いたかったことがわかる。  

こんな世界の果ての島にどんな用があると言うの？

長いこと旅をしてきたよ。色々な場所へ行ったし、君が想像したことすらないような経験をたくさんしたよ。そして明日にはまたどこかへ行かなくてはならない。

動きのない水がいつしか腐ってしまうように、同じ場所に逗まり続けるわけにはいかないんだ。